JPRS 20年の歩み
JPRSの設立と
汎用JPドメイン名の導入
JPRS設立前の1990年代後半、インターネットは利用者数を急激に増加させていました。電子メールの利用やWebサイトの作成が流行し、それに伴ってドメイン名の利用も広がっていきました。インターネット利用拡大の波の中、当時のJPドメイン名は「1組織1ドメイン名制限」などの厳格なルールで運用されていたために、安心して利用できるドメイン名空間を実現してきた一方、国内のドメイン名需要が「.com」などに流れる構造となっていました。
そこで、当時JPドメイン名を管理していた社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)において、二つのことが課題として認識されるようになりました。一つは、日本に住所があれば、個人を含め、誰でも、何件でも登録することができるドメイン名の新設、もう一つは、TLD間の競争を勝ち抜くための組織の設立です。多くの議論と意見交換の末、前者は「汎用JPドメイン名」のサービスとして、後者はJPドメイン名事業の株式会社化として結実し、2000年12月26日、株式会社日本レジストリサービス(JPRS)が誕生しました。
JPRSの最初の挑戦は、汎用JPドメイン名をスムーズに導入することでした。誰でも登録できるという汎用JPドメイン名の特性上、対策なく導入すれば、混乱が生じることは明らかでした。そこで、属性型JPドメイン名を登録している登録者が、同じ文字列を優先して登録できる「優先登録申請」、汎用JPドメイン名運用開始までにドメイン名の登録を受け付け、重複が生じた場合に抽選で登録者を決める「同時登録申請」といった仕組みを実施しました。当選番号を予測できない抽選の仕組みを含め、これらは世界に先駆けた試みでした。これらの取り組みにより、汎用JPドメイン名は2001年5月7日に、無事運用を開始しました。
「JPドメイン名レジストリ」
としての
基盤整備と
インターネット発展への貢献
JPRS設立から最初の10年は、JPドメイン名レジストリとしてできることは何かを模索し、実現すべく奮闘した10年でした。インターネットは2000年代を通して瞬く間に広まり、社会インフラとなりました。そのような中で、JPRSはインターネットとJPドメイン名をより多くの人に利用してもらうべく、「JPドメイン名サービスを絶えず改善すること」「JP DNSを無事故・無停止で運用すること」「ポリシー策定や技術標準化を通してインターネットの発展に貢献すること」を主軸として、さまざまな取り組みを行いました。
サービス改善の面では、2002年10月に実施した「LG.JPドメイン名」新設が挙げられます。これは地方公共団体向けの属性型JPドメイン名で、ユーザー(住民・事業者)からのインターネット上での申請・届け出を行う電子自治体の実現など、地方公共団体が行う行政サービスに活用することを目的として作られました
2004年、「.jp」は世界で初めてIPv6に完全対応したTLDの一つとなり、世界におけるインターネットのIPv6化の前進に大きく貢献しました。そして、2006年には、JP DNSの更新間隔を短縮しました。それまで、ドメイン名の登録後、Webサイトやメールが使えるようになるまで1日掛かっていましたが、この更新間隔短縮により、15分程度で使えるようになりました。
JP DNSの安定性の面では、2003年以降、取り組みを加速させました。2003年には、WIDEプロジェクトと共同でJP DNSの大阪での運用を開始、2004年にはDNSサーバーを複数拠点に分散配置することが可能となるIP Anycastという技術をJP DNSに導入し、世界中に分散配置を進めました。
インターネット発展への貢献の面では、ドメイン名などのインターネット資源に関するグローバルな調整を行う「ICANNコミュニティ」の活動や、インターネット技術の標準化を推進する団体IETFの議論への参加が挙げられます。前者においては会議の調整役やキーマンとしてJPRS社員が活動してきました。後者においては、JPRSの社員が著者となった技術仕様(RFC:Request for Comments)が発行されるなど、インターネットの技術標準に貢献してきています。
また、2005年からは、WIDEプロジェクトとJPRS共同で、日本、そしてアジア地域に初めて設置されたルートサーバー(*)であるMルートサーバーの運用を始め、インターネット全体の安定運用にも貢献しています。
(*)DNSの階層構造における最上位の情報を管理するネームサーバー群のこと
新たな領域への挑戦
JPRSの企業理念は、「ネットワークの基盤を支える企業として、インターネットの発展に寄与し、人と社会の豊かな未来を築くことに貢献」することです。この企業理念の追求の一環として、2011年からは、新たな取り組みへの挑戦を始めました。
新たな取り組みの第一歩として、2011年にgTLD取次サービスを開始しました。これは、指定事業者向けに「.com」や「.net」などのgTLDを取り次ぐサービスです。gTLDを取り扱うために海外のICANN認定レジストラと直接取引をする指定事業者にとって、商習慣の違いや為替リスク、言語の問題などがビジネスを進める上での障壁となっていました。JPRSは、指定事業者が抱えるこれらの「壁」を取り除くことが、日本のドメイン名市場の発展につながると考え、gTLDレジストリと国内の指定事業者の間を取り持つサービスを始めました。
このサービスは、JPドメイン名レジストリの立場しか経験していないJPRSにとって、他TLDレジストリやレジストラに対する理解を深める重要な経験をもたらしました。そしてgTLD取次サービスを通じて得た知見を、JPドメイン名に活かす検討も、同時に進めています。
2015年からは、新gTLD「.jprs」の運用を開始しました。これは、インターネットに関する研究や開発を主な目的として、JPRSが創設したTLDです。2015年には「.jprs」を用いたDNSサーバーの分散配置による耐障害性強化に関する共同研究を開始し、2017年に、その成果を報告書として公開しました。また、TLD創設のプロセスにおいて得た知見を活かし、国内企業が持つ新gTLDの運用支援も行っています。
2016年には、サーバー証明書発行サービスを開始しました。社会におけるインターネットの重要性が拡大し続けるのに伴い、インターネットの安心・安全に対する要求もますます高まってきていました。gTLD取次サービスと異なり、これまで触れたことのない業界への参入となりましたが、JPRSは、サーバー証明書の提供がドメイン名やインターネット全体の安全性の向上に寄与すると考え、「サーバー証明書発行サービス」の提供を開始しました。
これまでの取り組みの進化
この10年は、東日本大震災、新型コロナウイルス感染症を始め、さまざまな大きな災禍に見舞われた10年でしたが、同時にインターネットの重要性が認識された10年でもありました。JPRSは、新たな挑戦に取り組む一方、よりよいJPドメイン名サービスの実現、インターネットの発展への貢献に向けて、これまでの取り組みを更に進化させてきました。
2012年に新設した「都道府県型JPドメイン名」は、以前から提供していた「地域型JPドメイン名」を、地域の発展に更に寄与できるよう、登録・活用しやすいものに発展させたドメイン名です。「○○○.aomori.jp」、「○○○.東京.jp」のように、都道府県名を利用しながらも、地域型JPドメイン名より短く、かつ汎用JPドメイン名と同様に自由に登録できるようになり、より便利に使えるようになりました。
また、2011年に発生した東日本大震災以降、改めてインターネット基盤に対する信頼性や安定性が求められるようになりました。JPRSでは、JP DNSだけでなく、ドメイン名登録管理サービス全体も、大きな災害に耐えられるような仕組みにする必要性を再認識しました。そこで、サービス継続性の確保と運営基盤の強化のため、2013年に大阪に業務拠点を設置し、その人員規模の拡充を図ってきました。その上で、サービス継続体制の強化を進めています。
インターネット発展への貢献という点では、引き続きポリシー策定や技術標準化に寄与すると共に、インターネット教育にも目を向け、その支援により積極的に乗り出しました。
2010年からは、若年層に正しい知識を身に付け、興味を持ってもらうことを目的に、ドメイン名とDNSについて学べるマンガ小冊子「ポン太のネットの大冒険」の無償配布を毎年実施しています。2017年には小学生向け学習教材『インターネットのひみつ【新版】』の制作に協力し、学研と共同で全国の小学校約20,000校と公立図書館約3,100館に寄贈しました。技術者教育の観点からは、DNS関連の情報発信を行っており、2018年には、JPRSの技術者が著者となり、『DNSがよくわかる教科書』の出版に協力しています。
更にその先へ
会社設立から20年、JPRSはJPドメイン名レジストリとしての取り組みと、新たな領域への挑戦を続けてきました。設立時には40名程度だった社員も、2020年12月には100名を超え、会社は次のステージに進もうとしています。
2021年からのJPRSは、これまでの取り組みをより活性化させ、「ネットワークの基盤を支える企業として、インターネットの発展に寄与し、人と社会の豊かな未来を築くことに貢献する」という企業理念のもと、新たな価値の創造を通して、社会に一層貢献していきます。